土星の環の消失 解説
Saturn ring plane crossing
1995年の5月から1996年の2月にかけて、「土星の環の消失」という、約15年に一度の珍しい現象が起きました。土星のトレードマークの環が見えなくなるというのは、いったいどんな事なのでしょう? ガリレオをも悩ませたこのめずらしい現象を、解説します。
- ●本当に環が消えてしまうのですか?
- 「土星の環の消失」と言われますが、環がなくなってしまうわけではありません。土星の環がとても薄いために起きる見かけ上の現象です。
土星の環は、氷と少量の岩石のかけらからできています。これらのかけらは土星の赤道の上空を回っています。環全体の直径が約27万kmあるのに対して、環の厚さは100m以下と非常に薄いのが土星の環の特徴です。そのため、真横から見ると薄くて見えなくなってしまいます。土星と地球との距離は、近いときでも約13億km。とはいってもどうもスケールが大きすぎますね。そこで土星の模型を作ってみましょうか。
環の直径を27cmとしてみましょう。27万kmを27cmにしましたから、10億分の1の模型です。土星の本体は、極方向が直径11万km、赤道方向が12万kmとつぶれた形をしています。これがそれぞれ11cm、12cmになります。環の厚さは100mの10億分の1、つまり1万分の1mmとなります。
土星までの距離を13億kmとして、この模型を13km向こうに置けば出来上がりですね。13km遠くにある縦11cm、横27cmの土星、その環はわずか厚さ1万分の1mm。環の真横からでは、いくらすばらしい望遠鏡でも見えませんね。
- ●約15年に一度見えなくなるのはなぜ?
- 土星は太陽の周りを29.5年で一周しています。そして太陽を回る面に対して26.7度、環を傾けています。そこで、太陽に対する環の角度が土星の公転の周期29.5年で変化します。
このことは地球の季節変化と良く似ています。地球の場合は太陽を回る軌道に対して赤道面が23.4度傾けています。そして1年で公転しその周期で太陽の照る角度が変化して季節変化が起きます。そして地球の赤道の真上に太陽が来るのが春分と秋分の2回です。
土星の一周は29.5年、そしてその間に2回土星の赤道上、つまり土星の環の真上から太陽が照らします。29.5年を2で割って、約15年に一度、この現象が起きます。
今回は、1995年11月19日に太陽が土星の環の真横にやってきます。これは土星にとっての秋分に相当します。
大まかには、太陽から見るのと地球から見るのは同じになりますから、土星の見え方は29.5年周期で上の図のように変化します。
- ●今回は4回、環が見えなくなります
- さらに地球との角度変化を考えてみましょう。土星から見た地球は太陽に対して南北にそれぞれ2.9度変化します。そこで、太陽が真横から環を照らす11月19日の前後に、地球が土星の環の真横に来るときがあります。今回は11月19日の前に2回、後に1回その現象が起きます。
1回目 '95 5 22 15時 地球が土星の環の真横
2回目 '95 8 11 05時 地球が土星の環の真横
3回目 '95 11 19 23時 太陽が土星の環の真横
4回目 '96 2 12 09時 地球が土星の環の真横
- ●土星の見え方は次々と変化します
- 図は土星から見た太陽と地球の角度変化を表しています。図の上が北、左から右へ時間が経過します。
- 1. 〜1995年5月22日
太陽も地球も土星の環の上、つまり北側にあります。太陽が環を北から照らし、地球も同じ北側にあります。
- 2. 1995年5月22日:1回目の消失
太陽は環を北側から照らしていますが、地球が土星の環の真横に来ているため、光っている環を見ることができません。
- 3. 1995年5月22日〜8月11日
太陽は環を北側から照らし、地球は環の南側つまり反対側にあります。もし環が不透明な板でできていたらこの時も見えなくなるはずですが、実際は、かすかに環が見えます。これは環が氷や岩石のかけらからできているため、太陽光が反対側にも散乱されるからです。
- 4. 1995年8月11日
5月22日と同じく地球が環の真横にいるため、環が見えなくなります。この時太陽は北側から照らしています。
- 5. 1995年8月11日〜11月19日
5月22日以前と同じく、北から太陽が照らし地球も同じ側から環を見下ろします。
- 6. 1995年11月19日
太陽が土星の環の真横にやってきます。このため環の北側にも南側にも光が当たりません。地球はこの時、北側から環を見下ろしていますが、環は見えません。
- 7. 1995年11月19日〜1996年2月12日
太陽は環を南側から照らし、地球は環の北側、反対側にあります。5〜8月と太陽と地球の南北が逆になっていますが、同様に環が見えます。
- 8. 1996年2月12日
5・8月と同じく地球が環の真横にいるため、環が見えなくなります。この時太陽は南側から照らしています。
- 9. 1996年2月12日〜
太陽も地球も土星の環の南側にあり、2009年までこの状態が続きます。
- ところで、土星はみずがめ座にあり5月の消失時は夜明けの東空に見えますが、地平高度は低く条件は良くありません。9月15日に衝を迎え、この頃は夜半に南中するので一晩中観察できました。11月の消失の頃は、宵空に土星が見え、夜更かししなくてもいいので一番見やすくなりました。'96年の2月は日の入り直後に、土星が沈んでしまうため条件が良くありません。
- ●こんな行事を行いました。
- 名古屋市科学館の1995年度の天文行事は、「土星の環の消失」に合わせて組まれました。まずは本ページ。そして条件が良くなる8月にはプラネタリウムの一般投影で、最新のCG映像を交えて解説しました。8月下旬の天文クラブ中学生クラス研修会や御岳親子星座教室では、細い細い環が見られました。10月21、22日の市民観望会では環の消える直前の土星を見えました。そして、11月の18、19日には、環のない土星を見る大観望会を開催しました。
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